【完】悪名高い高嶺の花の素顔は、一途で、恋愛初心者で。
「ごめんなさい那月君。今日、予定が入って……」
ベッドに座る那月君の隣に座って、申し訳ない気持ちを告げた。
「そうですか……。誰かと、出かけるんですか?」
「うん。えっと……家族と、お食事会があって」
那月君は、何故か一瞬黙り込んで、そしていつものように優しい笑みを浮かべた。
「……そうなんですね。それじゃあ俺、家まで送っていきます」
……?どこか、様子がおかしい那月君。
それにしても、送ってもらうなんて悪い。
「電車で帰れるから、大丈夫」
「遠慮なんてしないでください。俺が送って行きたいんです」
ほんとうにいいのかな?と思ったけれど、断るのも悪い気がして、頷いた。
「ありがとう」
その後の那月君はいつもどおりだったけれど、心なしか……少しだけ口数が少なくなった気がした。