【完】悪名高い高嶺の花の素顔は、一途で、恋愛初心者で。
「なんでそんな照れてんのよ、どーせ残業かなんかでしょ」
お姉ちゃんは、私が二十八年間、色恋沙汰のいの字もなかったことを知っている。故に、私に彼氏が出来ただなんて、思わないだろう。
最近は会っていなかっったし、恥ずかしいからまだ伝えていなかった。
返答に困って黙っていると、お姉ちゃんは、「まさか……」とでも言いたげな表情で口を開いた。
「……あんた、彼氏できたの?」
「……っ」
身内に恋愛話するのって、なんて恥ずかしいの。
顔が赤らんでいるのを隠すように、うつむきながら頷いた。その後、長い沈黙が続いた。
ど、どうして黙ってるの?
無言に耐えきれず顔をあげると、お姉ちゃんはポカンと間抜けに口を開けて、固まっていた。
余程驚いたのだろうか、私を凝視してからやっと硬直が解かれる。
「いやっっだ!やっとぉ!よかったじゃなぁい!」
「まさか本当に朝帰りとは。熱い夜だった?」と付け足すお姉ちゃんに、増して行く頰の熱。
あ、熱い夜って、何それ。全く、お姉ちゃんはすぐに変な方向に持って行くんだから……。
「あ、朝帰りだけど、お姉ちゃんが思ってるようなことはしてないよっ」
「……え?男の家泊まったんでしょう?」
「と、泊まったけど……」
「で、したんでしょ?」
「し、してない……!」
再びポカンと口を開けて、固まり始めたお姉ちゃん。