【完】悪名高い高嶺の花の素顔は、一途で、恋愛初心者で。
今言い訳をしなければ、また那月君が離れていってしまう気がして、途端に恐ろしくなった。
「待って那月君、あのね」
「気にしないでください。俺が急すぎました。ごめんなさい。今日は帰ります」
「那月君はなにも悪くなくて、私がっ……」
「戸締り、気をつけてください。それじゃあ、また」
どうやら、聞く耳も持ってもらえないらしく、荷物を持ってリビングから出て行ってしまった那月君。
その後ろ姿を、私は黙って見送ることしか出来なかった。
「どう、しよう……」
こんなの、この前のデートと一緒だ。
怖かったとはいえ、あんなあからさまに拒んだら……那月君も、嫌だったに決まってる。
激しい自己嫌悪に陥った私は、ソファに座りながら、クッションに顔を埋めて涙をぐっと堪えた。