【完】悪名高い高嶺の花の素顔は、一途で、恋愛初心者で。
はっとして、慌てて那月くんの姿を探す。
もう、来てるかな……。
外回りの後は総務部に顔を出しているから、来ているかもしれない。不自然に見えないよう、視線を泳がせながら辺りを見渡したけれど、探していた人の姿は見つからなかった。
諦めて、視線をPC画面へ戻した時。
「那月くん!今週の日曜日空いてる?」
背後からそんなセリフが聞こえて、反射的に振り返る。
那月、くん?
視界に映ったのは、後輩の女の子と話す、那月くんの姿だった。
……っ。
ひとつのデスクを挟んだ距離に、二人がいた。那月くんは私の視線に気づいたようで、一瞬確かに視線がぶつかる。
けれどすぐに逸らされ、那月くんは女性社員と会話を始めてしまった。
「日曜日?どうして?」
「去年地方に転勤した金崎さん覚えてる?土日に戻ってくるらしいから、慰労会でもしようって話になったの」
「へぇ、そうなんだ」
「それで、元営業部の人にも出欠聞いてるんだけど、那月くん来れる?」
盗み聞きはしたくないけど、距離が距離だから嫌でも聞こえてしまう。
日曜日。その日は、私を映画に誘ってくれた日。
「うん。金崎さんにはお世話になったし、出席させてもらうよ」
——え?
「ほんと?やったー!那月くんが参加なら、女性社員喜ぶよ〜」
「なにそれ」
楽しそうに話している声が聞こえて、わたしは耳を塞ぎたくなった。