【完】悪名高い高嶺の花の素顔は、一途で、恋愛初心者で。
どうしたんだろう?
設計部の後藤くんが、総務部にいるなんて、珍しい。
「おはようございます!」
「おはようございます」
あたりにキラリと装飾を散らすような、元気いっぱいな笑顔を向けられた。後藤君って、いつも明るいな。私も、こんな人になりたい。
私も軽く会釈して、同じ言葉を返す。
「なにかありましたか?」
「あ、ちょっと総務の人に確認したいことがあって」
なるほどと納得して、自然な流れで一緒に歩く。行き先が一緒だから、わざわざ離れるのも不自然だ。
後藤くんは、なぜか嬉しそうにわたしの方を見ていた。
……と思えば、次の瞬間切れ長の目をまん丸と見開いた。
「……あれ?花京院さん、大丈夫ですか?」
「え?」
「なんか、元気無さそうですけど……」
その言葉に、今度はわたしが驚いた。どうして、わかったんだろう。
わたしは、元来感情が表に出にくいタイプだ。
喜怒哀楽が見えないと言われるし、自分でも理解している。
落ち込んでいるのは事実だけど、そんなに負のオーラを漂わせていたかな?
そうだとしたら、気を引き締めないと。
「いえ、いつも通りですよ」
「そうですか……?ならいいんですけど」
安心したように、微笑んだ後藤くん。私みたいな人間のことも心配してくれるなんて、後藤くんは優しいな。
「どうぞ」
そんなことを思っている内に、オフィスに戻ってきて、後藤くんが扉を開けてわたしを先に行かせてくれる。
ふと、後藤くんはモテるんだろうなと思った。
別に他意はなく、立ち振る舞いがとても自然だったから。