イジワル副社長と秘密のロマンス
1章、
再会
「気のせいかな?……私、お見合いしてるような気分なんだけど」
目を細め、硬い口調で問いかけると、目の前に立つ友人が、私に向かって手を合わせてきた。
「千花(ちか)ごめん! 私は反対したんだけど孝介(こうすけ)がさぁ……袴田(はかまだ)さんの熱意にほだされちゃったみたいで」
続けて、「本当にごめんねっ!」と深く頭を下げられてしまった。
私は口から出かかっていた文句の言葉を無理やり飲み込み、前髪をくしゃりとかきあげながら長いため息を吐いた。
9月。夏の疲れと残暑は残れど、季節はゆっくり秋へと移ろい始めている。
そんな中迎えた連休。私は地元の友人ふたりにディナーに誘われ、胸を躍らせながら久しぶりに生まれ育った町へと帰ってきた。
私を誘ってくれた友人のうちひとりは、今私の目の前にいる彼女、横川椿(よこかわつばき)。
そして彼女と向き合っているこの場所は、地元だけでなく全国にも名の通っている高級ホテル内にある、内装も豪奢で掃除の行き届いた女性用トイレ。
きらびやかな空間に、私の不機嫌な声と椿の苦笑交じりの謝罪が途切れることなく交互に続いている。