イジワル副社長と秘密のロマンス

ちょっぴり寂しそうな顔をして、個室へと入っていく彼女を見送ってから、私は少しだけ肩の力を抜き、その場をあとにした。




連休真っ只中だからか、それとも夕食時だからか、レストランのあるここ中二階はそれなりに人で混雑している。

廊下奥の目的地に向かって歩きながら目線を遠くに伸ばすと、きらきらと眩い輝きを放つ豪華なシャンデリアが視界に入った。

私はわずかに目を細めた。



初恋で、初カレでもあった彼とさよならをしてから十年以上経ってしまった。

椿の言うことは間違っていない。

いつまでも彼に囚われていないで、一歩前に踏み出すべきだと、私も分かっている。

……頭では分かっているけど、気持ちが彼との思い出から離れることを、彼への思いを途絶えさせることを拒絶する。

自分でも呆れちゃう。ほんと、どうしようもない。



ぼんやりした視線をシャンデリアから絨毯の敷き詰められた廊下へと落とすと、ちょうど、一階と中二階のフロアを繋げている階段から女性が姿を現した。

女性は廊下に出ると、行き先を探すように左右に顔を向けた。

ストレートの黒髪に、小さな顔に大きなサングラス。襟元が大きくあいた赤のニットに、細身のデニム。すらりと引き締まった体つき。モデル顔負けである。


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