イジワル副社長と秘密のロマンス

彼のカリスマ性に目を奪われていた来客も多かったし、私も改めて素敵な人だなと思わされた。

けれど、副社長としての彼を見せつけられたことで、凡人の自分との違いを思い知らされたことも確かだった。

彼を遠い存在に感じてしまった。少しだけ寂しく感じてしまった。

秘書として、もっともっと頑張らないと、ついて行くこともままならないのじゃないかという不安。

そして恋人としても、彼と自分は不釣り合いな気がして仕方がなかった。

樹君にはもっと、それこそこのパーティに呼ばれ出席している大企業の御令嬢たちのような女性のほうがふさわしいんじゃないかと……自分がちっぽけに思えてしまった。


「副社長、格好良い」


聞こえた言葉に、私は思わず息をのんだ。

隣に立っている星森さんが、うっとりとした顔で樹君を見つめていた。

星森さんの向こうに立っている宝さんもその声が聞こえていたみたいで、目を丸くして彼女を見降ろしていた。

そしてその視線はこちらへと向けられ、私は気まずさを覚えながら、ぎこちなく視線をそらした。

複雑な気持ちのまま樹君へと視線を戻せば、人と人の隙間をすり抜けるように、彼の視線がこちらへと向けられた。

目が合った。

そう感じた瞬間、彼がニヤリと笑った。

どうしようもなく込み上げてくる彼への愛しさと、それに比例して膨らんでいく寂しさが、胸を苦しくさせる。

私は笑みを返すこともできないまま、ただ彼を見つめ返していた。








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