イジワル副社長と秘密のロマンス


「大丈夫、大丈夫。もうそんなに痛くないし」

「本当? それなら良いけど……副社長に呆れ顔されちゃったよー。そそっかしいって思われちゃったかな。あぁ、失敗しちゃったかも」


痛みを笑顔で隠していたけれど、樹君のことを持ち出されてしまうと、その笑みが愛想笑いに変わってしまう。

それでも複雑な気持ちまで顔に出ないよう努めながら、私は自分のデスクへ戻り、バッグを掴み上げた。

その中から赤の水玉模様のランチバッグを取りだすと、星森さんがあっと反応した。


「もしかして休憩って言われた?」

「うん。星森さんは?」

「まだ何も。社長って……まだ戻って来てないよね」


彼女はソワソワしながら、廊下に繋がるドアから室内から、隣の社長室へと続くドアへと、視線を往復させている。


「先に休憩入るね」


そんな彼女に一声かけて、私は秘書室を出た。






向かった先は、7階。

7階にあるのは会議室や打ち合わせスペースだけでない。

ルーフバルコニーもあり、昼食の時間帯には自由に出られるようになっている。

しかもちょっとした庭園のようにもなっていて、天気が良い日は、そこでのんびりお昼を食べたりしているのだ。


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