イジワル副社長と秘密のロマンス


樹君?


心を震わせながら、彼の名前を思い浮かべた。


樹君、だ。


十年も会ってないし、間違えているかもしれないと考えたのは最初の一瞬だけ。

樹君本人で間違いないと、思いは確信へと変わっていく。

やっと会えた。本当に会えた。嬉しい。嬉しすぎて、胸が苦しい。


「樹?」


呼びかけられた声に、ハッとする。

先ほどのスタイルの良い女性がサングラスをわずかに下にずらし、こちらを見つめていた。


「誰? 知り合い?」


彼女の不躾な視線に、私は現実に引き戻された。

思い至った事実に、一気に心が冷えていく。

綺麗な女性。樹君の隣に並んでも引けをとらないくらいの華やかな女性。

彼女なのだろうか……だとしたら、文句のつけようがないくらい、お似合いだ。


「樹っ!」


今度は甘えたような声で彼を呼ぶ。私は視線を落とし、惨めさを堪えながら歩き出した。

けれど、斜め前に立っている彼の横を通りすぎた瞬間、そっと腕を掴みとられた。


「待って」


優しい力加減に鼓動が跳ねた。触れられた場所が熱くなる。


「千花」


迷いなど感じられないほど力強く、彼が私の名を呼んだ。


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