イジワル副社長と秘密のロマンス
袴田さんは憎々しげな目を樹君に向ける。
言い返したい気持ちはあるけど、樹君に効き目のある言葉が見つからないようだった。口を開け閉めするだけで、そこから言葉が出てこない。
「まぁ、あんたがどう思おうと、千花が今、俺の彼女っていう事実は変わらない。千花が欲しいなら、俺から奪うしかないけど?」
そこまで言って、樹君の手に再び力が込められた。胸倉を掴む力が強まったことで、袴田さんが苦しそうに顔を歪める。
「奪う気でいるなら、俺に全力で向かってきなよね。じゃないと、こっちも潰しがいがないから」
樹君が口元に笑みを浮かべた。あからさまなくらい挑発的な笑い方だった。
目は笑っていないし、声にも怒気が含まれているから、圧倒されてしまう。はっきり言って怖い。
今度こそ完全に、袴田さんは樹君の迫力にのまれてしまったらしい。小刻みに唇が、手が、足が震え、顔が色を失っている。
樹君が掴んでいた体を後ろへと突き飛ばした。
突き飛ばしたと言っても、軽く押しただけなのだけれども、袴田さんはよたよたとふらついたあと、盛大に尻餅をついた。
怯えと憤りがないまぜになった顔で樹君を見上げてから、続けて私を見てその表情に不満を追加させた。