イジワル副社長と秘密のロマンス
思わず身構えると同時に、樹君が私の前へと一歩踏み込んできた。
「だから、受けて立つって言ってんでしょ? 文句があるなら、俺にどうぞ」
盾になってくれているその背中は、とても大きくて、とても頼もしかった。
袴田さんは樹君に目線を定め、表情に怯えを貼り付けたまま、よろめきながら立ちあがる。
そのまま私たちに背を向け、足をもつれさせながら、必死な様子で逃げていく。
「……樹君」
彼の腕を引っ張って呼びかけると、すぐに彼のつま先が私へと向けられる。目と目を合わせれば、樹君の苛立ちがはっきり感じ取れた。
「なんでこんなことになってるの? いつから?」
「え?」
その怒りが今度は自分に向けられていることに気付かされれば、気持ちが冷えていく。
「面倒に巻きこんじゃって、ごめんなさい」
頭を下げると、頭に大きな手が乗せられる。視線を戻すと、樹君が私の顔を覗きこんできた。
「違う。千花を責めてるわけじゃないから、泣きそうな顔しないで」
言われて、自分の目に涙がたまっていることに気が付いた。
樹君が苦しそうに目を細めた。どう対応していいのか分からないような手つきで、私の頭を撫でてくる。