イジワル副社長と秘密のロマンス
「俺は、いつから付きまとわれてたのかが知りたいだけ……まさかホテルで会ったあの日からずっと、和菓子屋の男に付きまとわれてたとかいわないよね?」
私は大きく首を振って、彼の考えを否定した。
「違うよ。私はあの日以来、袴田さんとは会ってない……でもね、表参道店の方には、何度か私を訪ねて来てたみたいで。さっき店長からその話を聞いて驚いて……まさか、店の前で声をかけられるなんて思いもしなくて……」
ぐすりと鼻を鳴らしながら必死に説明する。なんとか言い終えると、樹君からため息が漏れた。
「良かった。付きまとわれて千花が困っているのを、今までずっと気付けずにいたのかと思った」
最後にもう一度「良かった」と囁いて、彼が薄く笑みを浮かべた。
安堵で少しだけ柔らくなった表情は幼くもある。
そこに昔の彼が重なって見えれば、どきりと鼓動が高鳴っていく。
「千花」
彼の大きな手が私の両肩に降りてきた。
樹君が私をじっと見つめている。いつも力強く輝いている瞳は、今はちょっぴり弱々しくて、なんとなく不安になってしまう。
「千花も……俺のこと、怖い?」
突然の質問に、私は瞬きを繰り返した。