イジワル副社長と秘密のロマンス

それはお店に入る前のことだろうか。だとしたら、表参道店近くでの出来事ぐらいしか、記憶に色濃く残っていない。

袴田さんのこと。それから、高級車に乗っていたあの男性のこと。


「どっち?」


考えていたことを、そのまま疑問として口に出すと、樹君がわずかに眉根を寄せた。ほんの少し間を置いてから、彼が正解を口にする。


「……俺が言いたいのは、あの和菓子屋の男のことだけど」

「袴田さん?」

「そう。また何かあったら、すぐに相談して。例え、仕事が忙しくて俺がくたばりそうだったとしても、遠慮しないで言ってよね」

「心配してくれて、ありがとう。そんなことになった時は、ちゃんと言うね」


袴田さんがもしまた自分の前に現れたらという不安よりも、私には樹君がいるという心強さの方が勝ってしまう。


「頼りにしてる」


笑みを浮かべながらぽつりと呟くと、樹君は僅かに目を見開いた後、得意げな顔で「そうして」と返してきた。

私は笑みを深めながら、シャンパンを口に含んだ。お酒も手伝って、本当に良い気分である。


「で?」


先を促すように、樹君が切りこんできた。私は訳が分からなくて、彼を見つめ返したまま「で?」と首を傾げてしまう。


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