イジワル副社長と秘密のロマンス
「さっき、“どっち?”って言ったじゃん。千花の思い浮かべたのは、何と何?」
そこまで言われて、ようやく合点がいく。
「袴田さんか、路肩に停車したあの車のことかなって思ったの……あの車に乗っていた男性は、樹君の知り合いなんでしょ?」
思い切って、心に引っかかっていたことをぶつけると、途端、樹君が気乗りしないような顔をした。
「……うん。顔見知りって言うか。面倒くさいからあんまり関わりたくないって言うか」
車内にいた男性と目が合ったのは、ほんの一瞬である。
たったそれだけでも、まるっきり樹君とはタイプが違う男性だということは見て取れた。
運転手に秘書っぽい女性。国外の高級車。質の良さそうなスーツ。得たイメージは、どこかの会社のお偉いさんである。
「やっぱり知り合いだったんだ」
「ニューヨークにいた時のね。あしらうのも面倒くさくなるくらい、なにかと俺に絡んできて……あいつも日本に帰って来てたんだ。帰って来なくて良かったのに……あぁ、もう本当に面倒くさい」
確かに年齢は私や樹くんとそれほど変わらないように見えた。
樹君と同じような環境で育ってきた人なのかなと思う傍ら……当の本人に、軽そうな印象を抱いたのも事実である。