イジワル副社長と秘密のロマンス


「……だったら、今からうちに見に来る? お持ち帰りはまだ無理だけど、ほとんど完成してるし」

「行く! 行きたい!」


樹君からの嬉しい申し出に、私はすぐさま飛びついた。

私のあの不出来な黒ネコが、樹君の手によってどのように生まれ変わっているのか。

想像するだけで胸が高鳴ってしまう。

必死に行きたいアピールしていると、突然、彼がニヤリと笑った。


「最初に言っておくけど、俺、一人暮らしだから。それも踏まえて、もう一回答えて」


私は浮かべていた笑みを引っ込めた。

そこまで考えずに“行く”と言ってしまったけれど、“一人暮らしだから”と言われてしまえば、盛り上がっていた気分にストップがかかる。


「これからうちに来る?」


樹君の部屋に行く。一人暮らしの男性の部屋に行く。ふたりっきりの空間。

私たちは付き合っていて、大人の男と女で……。

ふわりと、彼と再会した日のバーでの記憶が蘇ってきた。

帰ろうとした私を、今日はホテルに泊まっているからと引き止めた、樹君の真剣な表情。

あの時の表情が、目の前にいる彼に重なっていく。

熱を帯びた眼差しでじっと見つめられ、胸にじわりと甘い熱が広がっていく。

樹君はきっと、来るなら覚悟の上で来いと言いたいのだと思う。


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