イジワル副社長と秘密のロマンス
ホテルを思わせるような豪奢なエントランスに、圧倒されてしまう。
照明を反射した大理石の床には汚れひとつない。手入れが行き届いている。
ローテーブルと座り心地の良さそうなソファーがいくつか並べ置かれていて、それらを横目に進んだ先には、コンシェルジュカウンターがあった。
ホテルの受付かと勘違いしそうなほど完璧な微笑みを浮かべて、コンシェルジュがそこに控えている。
高層階専用のエレベーターに乗り込み、彼の隣に並ぶ。
箱の中にふたりっきり。お互い言葉を発しないから、静かである。
その静けさが、高鳴る鼓動を樹君に伝えてしまいそうな気がして、私は樹君に気付かれないように、こっそり深呼吸をした。
38階にエレベーターが到着し、樹君が慣れた足取りで内廊下を進み出す。
彼に手を引かれながら、好奇心のままに高級感漂う明るい廊下を眺めていると、「転ばないでよ」と繋いだ手にぎゅっと力が込められた。
大きな背中を見あげると、ほんの束の間忘れていた緊張感が蘇ってきた。
前を歩く彼の足が止まり、繋いだ手がそっと離れていく。
目の前には大きなドア。樹君の家に到着したのだと分かれば、鼓動が早くなっていく。