イジワル副社長と秘密のロマンス
緊張と期待が自分の中で膨らみ過ぎていて、どうにかなってしまいそうだ。
「どうぞ」
先へと促され、私はおぼつかない足取りで、開けてもらった扉をくぐり抜けた。
樹君はさっさと靴を脱ぎ、足早に廊下を進んでいく。程なくしてその先の部屋に明かりがともった。
今夜この部屋で、私はたくさんの初めてを体験する。
緊張と不安で動けずにいると、樹君が不思議そうな顔をして玄関先に戻ってきた。
「今からそんなに緊張しててどうすんの?」
「べっ、別に緊張なんかしてないっ! 全然してない!」
強がって口から出まかせを言うと、樹君が顎をそらして薄く笑みを浮かべた。
「ふうん、そう……それじゃあ……お手をどうぞ」
そう言って彼が私に手の平を差し出してきた。
「……えっ、と。これは、いったい……どうしたら」
「雰囲気づくり。リビングまでエスコートしてあげる。女って好きなんでしょ、こういうの」
何か企んでいるとしか思えず、彼の手の平を思わず凝視してしまう。
「だから、お手をどうぞ」
樹君が、慇懃な所作で言葉通り私をエスコートしようとしている。
そういうキャラじゃないと分かっているのに、優美な微笑みを浮かべ、文句のつけようがないくらい格好良くそんなことをされてしまうと、否応なしにドキドキさせられてしまう。