イジワル副社長と秘密のロマンス
昴じいさんのひとりごとに、俺は肩を竦めた。
確かに前かごに荷物は入っていたけれど、言うほど大荷物ではなかったような気がする。
確認しようと彼女を見たけれど、ここからではもう、白いブラウスの小さな背中しか見えなかった。
「……あれっ。樹、お前荷物は?」
名残惜しそうにため息を吐いた直後、昴おじいさんが声を裏返した。目を見開いて俺の周りを見ている。
「まさか、お前電車の中に荷物置き忘れたとか」
「は? 身軽で来るに決まってるじゃん。邪魔だし重たい。電車に乗る前にこっちに宅配便で送ったから。そのうち届くんじゃん?」
一拍置いて、昴じいさんが無精ひげをなぞりながらニヤリと笑った。
「なるほど。お前なら、誰に言われるまでもなく、そうするよな」
何が面白いのか分からないけど、じいさんが豪快に笑い出した。
「ただ、翼にとってのお前は、小さくて何も出来ない子供のままなんだろうな。アイツ、俺に何度も電話してきたぞ。心配だ、迷わず無事に到着できるかどうか心配だって、本気で心配してたぞ。翼に無事着いたって連絡入れてやれ。樹、よく頑張ったなって泣いて喜ぶだろうから」