イジワル副社長と秘密のロマンス
意識をテーブルに戻して正直に打ち明けると、袴田さんが不機嫌そうに顔を歪めた。
でもそれを私に見せたのは、ほんの一瞬だけだった。彼の表情がすっと“普通”に戻っていく。
怒りを心の奥底に引き戻して、彼は淡々とした口調で再び話し出した。
袴田さんの話はやっぱりお店のことで、創業してもうすぐ100年を迎えるという今日すでに三回くらい聞いている話から始まった。
一番売れているのはかりんとう饅頭だけど、自分が意見を出して販売している毎月限定の和菓子も、それに迫る売り上げだとか。
店の経営が落ち込んだ時もあったけど、自分が仕事にかかわるようになってからは、売り上げが右肩上がりだとか。
副社長は大変だとか。
自分の仕事に誇りを持つのは素敵だと思う。
思うけれど、だんだんと、店の自慢ではなく彼自身の自慢を聞かされているような気持ちになっていく。
これ以上聞いていたら、かりんとう饅頭すら嫌いになってしまいそうな気がして、私は曖昧な笑みを浮かべつつ、適当に相槌を打ちながら、話を聞き流すことにした。
熱弁を振るう袴田さんの髪の毛がさらさらと揺れている。天辺には天使の輪ができていて、とても綺麗である。
ネジが緩んでいるのか、大きさが合っていないのか分からないけど、さっきから何度もずり落ちてくる眼鏡を中指で押し上げている。