イジワル副社長と秘密のロマンス
その動作は、先ほど廊下でも見た。樹君の連れの男性もそんな動作をしていた。
彼らのことを思い出すと同時に入口近へと視線を戻せば、そこにもう樹君たち四人の姿はなかった。
慌てて周囲を見回し、窓際のテーブルに彼らの姿をやっと見つけてホッとする。
会えたことに浮かれたまま、私は何も考えないままに樹君の元を離れてしまった。
運よく、レストランに空席があったから良かったものの、もし満席だったなら……彼らはこの店を離れてしまっていたかもしれない。
それは、樹君と何も話せぬまま再会が終わってしまったことを意味する。
状況は今も変わらない。芳しくないままだ。何か行動を起こさない限り、彼と言葉を交わすことはたぶんもうないのだから。
連絡先くらい教えてもらいたい。もがき苦しむのはもう嫌だ。樹君と話がしたい。
幸いなことに、ここはブッフェスタイルのレストランである。
彼が料理を取りに立つのを見計らい、私も席を立つ。近づき、話しかける。これしかない。
女性も彼についてくるかもなんて余計なことは、とりあえず考えないようにして、私はバッグからそっと携帯を取り出し、机上に置いた。
準備OK。あとは樹君が動くのを待つだけだ。