イジワル副社長と秘密のロマンス
力を入れた右足にズキリと痛みが走った。眉間にシワをよせつつ、俺は既に立っている千花の腕を掴んで立ち上がる。
俺が難なく立ちあがったのを見届けてから、男性はこの場を去っていった。
捻挫か打撲か右足首が痛いけど、歩けないほどではない。我慢できないほどじゃない。
一つ息を吐いてから、俺は気持ちを切り替えて、再び階段へと歩き出した。
けど、階段を一段のぼったところで、千花に腕を掴まれてしまった。肩越しに後ろを見たけど、彼女は俯くだけで何も言わない。
「上、行くんでしょ?」
問いかけると、やっと千花が俺を見た。大きく首を横にふる。
「ごめんね。もういいよ」
目に涙をためて、訴えかけてきた。
「足も腕も痛そうだよ。もう帰ろう」
言われて、初めて自分の肘に血がにじんでいることに気が付いた。でも、ちょっとしたかすり傷だ。こっちもたいしたことない。
「樹君、ごめんね。私がもっと注意してたら、こんなことにならなかったのに」
俺の腕に触れている手がわずかに震えている。
「……私がここに連れてこなかったら」
発せられる彼女の声はか細いのに、やっぱり、俺の中で強く響き出す。心が騒めき出す。