イジワル副社長と秘密のロマンス


「樹君、本当にごめんね」


瞳から涙が零れ落ちたのを見た瞬間、感情が揺さぶられた。

泣いてる女なんて何度も目にしたことがある。鬱陶しいとしか感じたことがなかったのに……千花に対しては、違う感情を抱いてしまった。

俺は彼女を泣かせたくない、と。


「悪いと思ってるなら、肩、貸してくれない?」


話しかけると、千花が涙のたまった目を大きくさせた。


「歩くの痛いから」

「うん! もちろんだよ!」


俺は慌てて歩み寄ってきた彼女の肩に手を回し、強引に引き寄せた。

至近距離で目と目が合えば、悲愴に満ちていた彼女の表情の中に、驚きやら戸惑いやらぎこちなさが生まれた。

恐る恐ると言った様子で、俺を支えるよう添えられた彼女の手に、妙なくすぐったさを感じてしまう。

千花が俺を見た。けれど、目を合わせると、すぐにそらされてしまった。

どちらからともなく、ユメがいる場所へと歩き出す。

予想以上に痛みがひどくて、足を引きずってしまえば、千花が心配そうに俺を見た。


「大丈夫? 親呼ぼうか? 車で迎えに来てもらった方が良いよね?」

「いい。そんな大したことないから。このまま帰れる……このままでいい」



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