イジワル副社長と秘密のロマンス
わずかに千花に体重をかけ寄りかかると、彼女がまた気まずそうに視線を彷徨わせた。
「……あっ。この体勢、止めて欲しかったりする?」
好きでもない男と密着することに、嫌悪感を持たれてしまっているかもしれない。
しかも、さっきのことで千花は自分を責めてもいる。
内心は密着されるのが嫌だったとしても、負い目を感じているから拒絶しづらい状態なのかもしれない。
身体を離そうとすると、肩に回していた方の手をきゅっと掴まれた。
「ううん。樹君が平気なら、私もこのままでいい」
色白の頬が赤くなっているのを見て、千花が恥ずかしがっていることが伝わってくる。
なんだか俺も気恥ずかしくなってしまい、「だったらいいけど」と返事をすることしかできなかった。
ユメのいる場所まで戻れば、「私が持つね」と千花がユメのリードを手にする。
薄暗くなってきている道を、俺は千花の肩を借りながら、のろのろと歩き出した。
「樹君。本当にごめんね」
「ごめんねはもういい。俺、千花のせいだなんて思ってないから、謝られても困るし」
思っていることをはっきり伝えても、千花は「だけど」と言葉を濁した。