イジワル副社長と秘密のロマンス
「私ね……樹君に、この町のことをいつまでも覚えていて欲しかったから、ここに連れてきたの……それなのに痛い思いさせちゃって、裏目に出ちゃった。嫌な思い出として、記憶の中に残してほしくなかったのに」
道中、彼女がしきりにこの町の話をしていた理由を知り、じわりと、心に温かさが広がった。
また千花と目が合ったけど、彼女は寂しそうな笑みを俺に見せたあと、視線を足元に落としてしまった。
そうじゃない。心の中で強くそう思うけど、伝わらない。
伝わらないなら、手っ取り早く言葉にしてしまえばいい。その方が何倍も俺らしい。
「行けと言われた時はどうなるかと心配だったけど、今は、今年の夏は悪くなかったと思ってる」
心の中を覗きこむかのように、千花が俺を見た。俺も彼女の視線を堂々と受け止める。
「だから、嫌な思い出になんかならない。過ごした一か月も、今日のことも」
「本当?」
「本当」
「……良かった」
ホッとしたように笑う千花を見て、なぜか俺までホッとしてしまう。
「あぁ、それと……さっき見た景色、綺麗だと思ってたから。俺を感動できない人間みたいに言わないで」