イジワル副社長と秘密のロマンス
ついでに、腑に落ちていなかった思いをも伝えれば、彼女が驚いた様子で瞳を大きくさせた。
それが「違うの?」って言ってるみたいで、ちょっとだけ癪に障る。
「そうだったんだ。私てっきり……でも、そっか。すごく嬉しい」
千花がふふっと笑った。俺の耳に心地よく響いてくる。
「良い町だよね。空気も良いし。平穏だし」
来て良かった。思いの外、楽しかった。その思いを言葉に込め、俺は笑みを浮かべた。
「俺、けっこう好きかも」
三秒後、彼女が顔を真っ赤にさせ、勢いよく視線をそらした。そわそわとした様子で、視線を泳がせ始める。挙動不審。
「……なに照れてんの?」
「照れてなんてないけどっ!?」
「いや。どう見ても照れてるよね」
「だから、照れてないってば!」
「……ちょっと、暴れないで。足、踏んでるから。痛いから」
「ぎゃあっ! ごめんなさい!」
周囲を包み始めた夜の暗さなど気にすることもなく、のんびりとした足取りで歩いていく。
千花と話をしながら、俺はもうすぐ訪れる別れの時のことを考えていた。
その時、きっと俺は言うと思う。
「またね」って。
来年の夏も、俺はここに来る。
彼女と並んで歩いてる。
そんな予感がする。