イジワル副社長と秘密のロマンス

袴田さんのずっと向こう側にいる樹君をちらちらと見ていると、隣の席の女性二人がわっと色めき立った声を上げた。


「ねぇ、あの女性(ひと)、津口可菜美(つぐちかなみ)っぽくない?」

「津口可菜美?」

「ほら、Rhyme Note(ライムノート)の専属モデルになった人」


聞こえてきた名前と女性向けのファッション雑誌名に、私は小さく声を上げた。

さっき感じた既視感がやっと解決したのだ。

そうだ。彼女の言う通りである。少し前に、あの綺麗で小さな顔が、RhymeNoteの表紙を飾っていたのを、私は本屋で見かけている。

そこに気が付けば、樹君のいるあのテーブルが、急に都会めいて見えてきた。

樹君はもちろんのこと、彼とテーブルを共にしているの年配の男性も、自分と年が近いだろう眼鏡の男性も、洗練された雰囲気を放っていて、周りとは一線を画している。


「津口可菜美のとなりにいるのって、彼氏かな。すごく格好良くない?」

「ほんとだ。彼もモデルかな? いいなぁ。イケメン羨ましい」


興奮していて小声になり切れてない言葉が、隣りから聞こえてきた。私はこっそり苦笑いする。

津口可菜美さんの隣にすわっているのは樹君だ。


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