イジワル副社長と秘密のロマンス
嬉しくて、幸せで、心が震えている。涙が込み上げてくる。
「……樹君」
彼の視線が私へとおりてきた。
目と目が合った瞬間、彼がほんの少し口角を上げる。ちょっとだけ表情が柔らかくなった。
言葉だけじゃない。何気ない表情や仕草を見せられるたび、“好き”という気持ちが大きくなっていく。
その度、私は彼に恋をする。より深く、彼にはまっていく。
「……そっか」
星森さんが小さな声で呟いた。ハッとし顔を向けると、ちょうど彼女も顔を上げたところだった。
「もうっ! それならそうと、言ってくれればよかったのに」
笑っていた。けど、その笑顔が痛みに耐えているようにも見えてしまい、私は何も言えなくなる。
「社長! 午前中の会議が始まる前に、会長の所に行かなきゃいけませんよ! 午後も仕事が詰まってて、大忙しなんですから、のんびりしている時間はありません!」
この話は終わりだとでも言うように、星森さんは社長へと身体を向け、声を張り上げた。
社長は少し身をのけ反らせ、心なしか瞳を大きくさせながら、「あ、あぁ。分かってる」と何度も頷き返す。
背を正し、眼鏡の位置を正してから、社長は樹君へと笑いかけた。