イジワル副社長と秘密のロマンス
「それじゃあ。午後、合流できそうだったら、よろしく頼むな」
「……分かった」
「今日も一日頑張ろう」
「あぁ」
そう言って社長が樹君へと歩み寄ってきた。意気揚々と掲げられた社長の手の平に、樹君が静かにハイタッチする。
気合注入するかのように「よし」と声を発してから、社長は星森さんを引きつれ、室内から出て行った。
ふたりの温度差に思わず笑みを浮かべてしまう。
「さ。俺たちも始めるよ」
口元に勝気な笑みを湛えながら、樹君がそう宣言する。
星森さんとのやり取りで引っかかっていることはあるけれど、彼の宣言により、恋人としての甘い時間は終了である。
ここからは副社長と秘書。
「はい!」
デスクへ向かっていく彼の背中に、力いっぱい返事をした。
+ + +
樹君と共にエレベーターを降り、ビルを出る。そのまま足を止めることなく、停車している車へと進んでいく。
車から降りてきた運転手が、樹君を迎えるように後部座席の扉を開けて会釈をした。
秘書の私は助手席へ乗りこむべく、彼の傍から離れようとしたのだけれど、樹君に腕を掴まれてしまった。