イジワル副社長と秘密のロマンス

樹君の顔が良いということに異存はない。背も高く足も長い彼なら、いろんなブランドの洋服をさらりと着こなしてしまう気がする。

絵になると思うけど……カメラの前で決め顔をする彼が全く想像できない。逆に、不愛想な彼にスタッフが振り回される様子を想像する方が簡単だ。


「……モデルかなんかがいるみたいですね」


袴田さんが後ろを振り返り、そして隣のテーブルの女性たちへと白けた目を向けてから、そんなことをぽつりと呟いた。


「そうみたいですね」


彼女の出ている雑誌名を言おうとしたけど、袴田さんがつまらなそうに肩を竦めたことに気が付いて、私は口を噤んだ。


「そのモデルだという彼女に気付いた女性はみんな騒めいてますけど、三枝さんは落ち着いてますね」

「いえ。そんなことは」


私も彼女が樹君の連れじゃなかったら、樹君の腕にじゃれ付いていなかったら、隣のテーブルの女性と同じように、騒いでいだろう。

元カレが今カノといちゃついているのを見せられて、なんだか面白くない……という気持ちが勝ってしまっていて、騒ぐ気になどなれない。

笑いながら首を振ると、袴田さんが眼鏡を押し上げた。眼鏡のレンズが光を反射した。


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