イジワル副社長と秘密のロマンス
その上、撮影所には社長もいる。社長には星森さんも同行している。
朝のやり取りを思い返せば、あの時見た彼女の悲しそうな顔が、頭の中に色濃く蘇ってきた。
同時に気まずさで心がいっぱいになってしまう。これからどんな顔をして合えばいいのだろうか。
不意に、キーボードを叩く音が止んだ。
「千花?」
樹君が手を止め、私をじっと見つめている。力強く輝く瞳に、自分の心の内を読みとられてしまうような気がして、私は慌てて笑みを浮かべる。
「何?」
仕事に私情を挟んだらダメだ。私の表情や態度一つで、AquaNextのイメージを悪くしてしまうことだってあるのだから。
樹君の右手が私の頬に触れる。包み込んできた。
「何、その変な顔」
「なっ!……変と言われましても、もともとこういう顔でして」
「いつもは違うでしょ。なんで俺とふたりっきりの時まで我慢してるの? 不安なら不安だって、今のうちに吐き出しときなよ。それくらい受け止めるし」
「……樹君」
彼の一言で、繕っていた笑顔が崩れ落ちてしまった。
ほんの少し逡巡してから、私は思い切って話を切りだした。
「樹君って、星森さんと何かあった?」