イジワル副社長と秘密のロマンス
そして同時に感じたのは、女性から気のある素振りをされることに慣れているのだろうなということ。
「樹君、昔からモテてたもんね。女性から言い寄られたりするの、慣れてそうだよね。津口さんからも、大好きって抱きつかれてたりしてたし」
「余計なこと思い出さなくていいから、千花は堂々と俺の隣に立ってて」
秘書としてのプライドも、彼女としてのプライドも、人並みに持っているつもりだけど、格好良すぎる彼の隣で胸を張れるほど、自分に自信がある訳ではない。
「……うん。頑張る」
なんとか笑みを浮かべると、彼が迷う様に視線を揺らした。そして自分の傍らに視線を落とし、ぽつりと呟いた。
「本当は、今日の夜、食事にでも誘って渡そうと思ってたけど……今渡しとく」
「何を?」
先の言葉は彼の中では独り言だったのだろう。私の問いかけには答えぬまま、身体の横に置いてあったビジネスバッグを手に取った。
「はい」
バッグの中から出てきたのは、AquaNextの小型のトートバッグだった。
「可愛い!」
お洒落な水玉模様に興奮していると、「中身はうちの商品じゃないけどね」と樹君が補足してきた。
「くれるの?」
「どうぞ」
中身は何だろう。好奇心に抗えず、ドキドキしながら彼からトートバッグを受け取った。