イジワル副社長と秘密のロマンス
やや間を置いてから、私はぎこちなく両手を上げてみた。万歳だけでなく、「やったー」と言葉もつけてみる。
「ふざけてんの?」
お気に召さなかったようだ。厳しい言葉を突きつけられてしまった。
「ほら」
樹君が互いの身体の間にある肘掛けに肘を乗せ、私に顔を近づけてきた。
「はやく」
彼の望んでいることが分かれば、頬が熱くなっていく。
ちらりと運転席に目を向けたけど、バッグミラー越しに田代さんと目が合うこともなく、そして樹君がその要求を取り下げてくれそうな様子もなく、私は覚悟を決める。
ゆっくりと、樹君へ顔を近づけていく。
唇と唇の距離が近くなっていく。
「ありがとう。大好きだよ」
笑みを浮かべた彼の唇に、そっと口付けた。
伸びてきた彼の手が私の頭に触れれば、徐々に口付けが深くなっていく。
甘い余韻を残しながら唇が離れ、目と目が合った。
笑みを浮かべれば、彼も笑う。こつりと額と額が触れあった。
「あ、先に渡しちゃったけど、今日はなるべく早く仕事を終えるつもりでいるから、食事に行こう。夜は一緒にいよう」
私の頭をくしゃりと撫でた彼の手が、ノートパソコンのキーボードの上へと戻っていく。
彼にもらったぬいぐるみたちを胸に抱きしめて、私は笑みを浮かべた。