イジワル副社長と秘密のロマンス
スタジオ内に入ると同時に、「わぁ」と声を上げてしまった。
広いフロアの壁沿いに、お姫様の部屋のようなものや、ガーデンやカフェ、アンティーク調のものまで、様々な背景が造られている。
ついつい足を止め、始めて見る撮影スタジオに目を輝かせていると、樹君が振り返り、呆れ気味に口を開いた。
何かを言い淀んだとあと、「三枝さんと」と私を呼ぶ。
こちらへと差し出すように伸ばされた手も、ぎこちなく上昇し、妙な手招きに変わる。
ついさっきまで恋人モードだったため、どうやら切り替えに失敗してしまったらしい。
「にやにや笑わないで」
「だって、樹君がすごく可愛いから」
「すごく可愛いとか言わないで」
小声で言葉をやり取りする間も、樹君はちょっぴりふて腐れている。
それが照れ隠しのようにも見えてしまう私には、たとえ嫌がられようとも、彼が可愛らしくて思えて仕方がない。
「おっ! 樹!」
場にそぐわない野太い声が響き渡った。
脚立やレフ版などが置かれたその向こう、自然光がたっぷりと差し込んでいる大きな窓の傍に、背の高い男性が立っていた。
後ろで髪を一つに束ねたその男性は、ホッとした表情で樹君に手を振っている。
その隣には社長と星森さんが立っていて、ふたりともほんとりと疲れの滲んだ笑みを浮かべていた。