イジワル副社長と秘密のロマンス

そしてもう一人、表情を輝かせて勢いよく振り返った女性がいた。津口可菜美さんだった。

彼女はAquaNextの来季の目玉の一つである純白のドレスを身にまとっている。

総レースのデザインのそれはとっても華やかで、かつ繊細である。


「悪い。今は副社長だもんな。呼び捨てはいけねぇよな」

「いえ。樹で構いません。吉原(よしはら)さん、今回もお世話になります」

「おう! こっちこそよろしく頼むな」


吉原という名から記憶を辿る。確か、AquaNextがずっと撮影時にお願いしている贔屓のカメラマンだ。若々しくも見えるけど、たぶん四十代後半だろう。

吉原と樹君は、まるで引き寄せられるかのように、言葉を交わしながら互いに歩み寄っていく。

私は迷った挙句、後ろへと後退した。樹君の後ろに続くことはせず、少し距離を置いて控えることにしたのだ。

社長たち三人も吉原さんに続く形で歩き出したけれど、途中で、津口可菜美さんが吉原さんを追い越した。


「樹っ! 遅い! 待ちくたびれた!」


言葉では文句を言いつつも、顔は笑顔だ。樹君に会えて嬉しいんだってことが、しっかりと伝わってくる。ドレスに負けないくらい、笑顔が眩しかった。


「ねぇどう? 私のウェディングドレス姿!」



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