イジワル副社長と秘密のロマンス
そう言って、樹君の前で彼女が両手を広げ、美麗な笑みを浮かべた。
樹君は腕を組み、津口さんをじっと見つめている。
同性の私でも思わず見惚れてしまうくらいだ。男性である樹君ならなおさら、彼女のことを魅力的だと感じることだろう。
ふたりを見つめながら、ぼんやり余計なことを考えてしまう。
「うん。良いんじゃない?」
樹君がはっきりとそう言った。褒め言葉と、津口さんの顔が嬉しそうに輝いたことに、ちくりと胸が痛む。
仕事中。今は仕事中。心の中で繰り返し、嫉妬を追い払おうとした時、樹君が再び口を開いた。
「プリンセスラインだけじゃなくて、Aラインと、マーメードラインのドレスは?」
周りに寄ってきていたモデルたちを見回したあと、樹君が吉原さんと社長に問いかけた。吉原さんが困ったように頭を撫でる。
「そっちは少し前に撮り終えてて」
「悪いんだけど、呼び戻してくれない? 俺も実際に着てるとこ見ておきたいんだけど」
樹君が希望を口にするとすぐに、「私が呼んできます」と手が上がった。スタッフの女性が足早に場を離れて行った。
「このドレスのデザインが一番華やかだし、宣材として映えるのはこれだと思うけど……」