イジワル副社長と秘密のロマンス
けれどやっぱり、最後は彼の言葉に救われる。その度に“好き”が増えていく。
「ありがとう。みんな衣装部屋に戻ってくれていいよ。少し待機してて」
ドレスを着てスタジオに戻って来ていたモデルたち、それから津口可菜美を順番に見て、樹君がそう切りだした。
同時にそれは、自分は津口可菜美と一緒に撮影などしないという意志表示でもあった。
呼び戻されたモデルたちは樹君に頭を下げつつ、次々と部屋を出て行く。周りに集まっていたスタッフも、思い思いの行動をとり始めた。
しかし津口さんだけはその場から動かなかった。悔しそうに顔を歪め、拳をぎゅっと握りしめている。
「でもなぁ。樹……」
カメラマンの血が騒いでいるらしい。吉原さんも諦めきれない目で樹君を見ている。
おまけに彼の隣に立っている私にまで、眼差しで何かを訴えかけてきた。
何か樹君に言って欲しそうだけど、私は何も言わない方が良いように思えた。
怒りを露わにしている津口さんの前で発言したら、火に油を注いでしまうような気がする。
「なぁ、樹……」
今度は泣きそうな声で名を呼ばれ、樹君が小さく息を吐いた。
「そんなに撮りたいなら、撮らせてあげる。けどそれは今じゃない。俺がモーニング着るとき、ちゃんと呼ぶから……ね?」