イジワル副社長と秘密のロマンス
最後の“ね?”は、私への言葉。同意を求めるかのような音だった。
結婚式を連想させるセリフ。さりげなく私の腰に回された彼の手。目と目を合わせれば、にやりと笑いかけてくる。
否が応でも意識してしまう。未来を期待せずにはいられない。おさまりかけていた熱が一気に戻ってくる。
顔の熱にさえも恥ずかしさを覚えた時、津口さんがくぐもった声で何か呟いた。次第に声が大きくなっていく。
「……て……やめて……もうやめてよ! 樹はそういうキャラじゃない! 甘ったるい言葉なんて、樹には似合わない! 樹じゃない!」
ざっと波が引いていく。一瞬で、場が静まったのを肌で感じた。
「似合わないってなに? 俺は思ったこと言ったまでだけど」
「私の知ってる樹は、そんなんじゃない……私がずっと恋してた樹は……」
そこまで言って、津口さんは唇をかみしめた。私を睨みつけてくる。すべての矛先が自分に向けられたことを察知し、私は無意識に身構えていた。
「なんでぽっと出のあんたに取られなくちゃならないのよ……どうせ、副社長って肩書に惹かれたんでしょ!?」
鼻で笑われ、私は眉をひそめた。