イジワル副社長と秘密のロマンス
「違います!……確かに津口さんは、私よりもずっと長い時間を樹君と過ごしてきたのかもしれない。けれど私だって、小学生のころからずっと樹君に片想いしてた……もう会えないかもしれないのに、好きで、大好きで、どうしても樹君を諦めることができなかった」
私の言葉が意外だったのだろう。津口さんがほんの数秒、唖然とした表情を浮かべた。
「小学生のころからって、どこで樹と繋がってたのよ……私、あなたの顔なんて見たことない」
「それは」と言葉を続けようとしたけれど、私の声は津口さんの大げさなため息にかき消されてしまった。
「本当に樹と知り合いだったの? 実際はたまたまどこかで見かけただけとか、単に樹のファンだったとか、そういうこと? 私は小学校からずっと樹と一緒なの。ニューヨークにだって、頻繁に遊びに行ってたし、ずっと近くにいたの。付き合いが長いの。樹のことはよく知ってるの!」
生きてきた環境が違うのだから、共有してきた時間に差があるのは当たり前だと分かっている。
分かっているのに、私と樹君のつながりが一度完全に切れてしまっている私には、その過去はとても羨ましいものだった。
黙ってしまった私の横で、樹君が乾いた笑い声を発した。冷めた表情で津口さんを見ている。