イジワル副社長と秘密のロマンス
私はフォローすることもせずに、そそくさとテーブルを離れた。
言葉にしてしまった手前、入口のあたりとその先に見える廊下を気にしつつ、私はデザートが並べられてあるエリアへと足を向けた。
椿と孝介先輩はどこかで合流し、時間つぶしをしているんじゃないだろうかと勘ぐってしまう。
孝介先輩は仕事の電話で席を外したみたいだから、本当に時間がかかっているのかもしれないけれど、椿は違う。
もうレストランに戻って来ていてもいい頃だ。
二人っきりになった私と袴田さんが、何かの話題で盛り上がったり、あわよくば意気投合することを期待しているのかもしれないけど……それは、たぶん無理である。心が袴田さんを拒絶しつつある。
それに……私の頭の中は樹君のことでいっぱいだ。
十年経った今でもまだ、自分の中にあの頃と同じ熱量が残っているというわけではないけれど……それでもやっぱり、彼への気持ちはちゃんと残っていた。
廊下で再会した時はもちろんのこと、同じ空間にいると思うだけで、鼓動がはやくなっていく。
この気持ちがどちらに傾くか、ちょっと恐いけれど……私は彼と話がしたい。
話をして、あの時の約束めいた言葉が、もうとっくに時効迎えてしまっているということを、ちゃんと理解した方がいい。