イジワル副社長と秘密のロマンス
そっと樹君の膝に触れると、彼が私に笑みを向けた。
「千花もね」
そう言って、私の手を大きな手で包み込む。とっても温かい。
疲労感と、タイヤの刻む音と、手の温もりと、傍にいる安心感で、徐々に瞼が重くなっていく。
車はスムーズに進んでいるけれど、自宅までまだ少し距離がある。
眠らないように気を張っていなければと思い樹君に話しかけるけど、だんだんと、言葉が途切れ途切れになってしまう。
「眠い?」
樹君が苦笑いしている。
「良いよ、俺にもたれかかって寝てて。着いたら起こしてあげる」
「そんなこと……悪いよ……」
自分よりもっと疲れているだろう彼の肩を借り、眠るわけにはいかない。
「悪くない」
彼の手が私の頭をそっと撫でてくる。心地よくて、瞼の重みが増してしまう。
「おいで、千花」
甘く響いた低い声と、優しげな微笑みに、とくりと胸が高鳴った。
「……うん」
悪いなと思いながらも、違う感情が勝ってしまった。
樹君に甘えたい。
私はすり寄るように、彼の肩に頬をくっつけ、目を閉じた。抱きつくように彼へ手を伸ばす。
優しく撫で続けてくれる彼の手に、今日一日感じていた緊張が解けていく。
樹君に触れてドキドキすることも多いけれど、やっぱりそれだけじゃない。
私も一緒だ。彼の存在に癒されている。
「……樹君……」
「ん?」
瞳をあけ、彼を見つめる。
「今日は、一緒に眠りたい」
このまま傍にいたい。樹君の隣で朝まで眠りたい。
「泊まってもいい?」
樹君が手を止めた。ちょっぴり目を大きくさせてから数秒後、笑みが戻ってきた。
「すみません」と樹君が運転手に声をかけた。そして目的地の変更を告げる。
私はぎゅっと彼を抱きしめた。
彼の手の温もりを感じながら口元に笑みを浮かべ、ゆっくりと瞳を閉じた。