イジワル副社長と秘密のロマンス
新しい一歩を踏み出すために必要なステップなのだから、このチャンスをみすみす逃すわけにはいかない。
「……そこまで悩むなら、いっそ全部食べたら?」
突然耳元で囁かれ、両肩が大きく跳ねた。おまけに引きつった声も出てしまった。
握りしめていたお皿を落としそうになり焦っていると、隣りに立っている男性が笑ったのが聞こえてきた。
「普通に話しかけてよ!」
「バカみたいに真剣なその顔が懐かしくて、つい」
「バカとか言わないで」
睨みつけたけど、樹君は動じない。
小生意気な笑みを浮かべて私を見おろしている彼を見あげて三秒後、私は自分のいたテーブルを振り返り、顔をしかめた。
「あぁもう。携帯置いてきちゃった」
テーブルの上に携帯を置いて待機していたというのに、あの場から逃げ出すことに必死で、忘れてきてしまった。
せっかく、樹君本人が私の隣に来てくれたというのに! 連絡先を交換する絶好のチャンスなのに!
「……樹君」
私は諦めきれずに、改めて彼へと体を向けた。
「何?」
ケーキの隣りに豊富に置かれている野菜をお皿に乗せながら、彼が短く返事をした。