イジワル副社長と秘密のロマンス
視線を落とせば、彼女は袖を引っ張ったというわけでなく、握りしめていたのだということに気付かされる。
「……樹君って、すっっごくモテるでしょ」
「は?」
「さっきからずっとね……女の子が樹君のこと見てる」
ちらりと辺りを見回せば、見知らぬ女と目が合った。目が合った瞬間、その女は隣りにいる友達らしき女の腕をテンション高めにバシバシ叩き出す。
目を細めて、なんとなく理解する。
テンション高めの女が持っているバッグに、見覚えがある。祖母ちゃんの店で見かけた気がする。
祖母ちゃんからの絶対命令で、俺は何度か広告モデルとして引きずり出されている。
だから、祖母ちゃんのブランドを気に入っているのならば、俺の顔を目にしたことがあっても不思議じゃない。
うんざりする。早くみんなの記憶から消えて欲しい。もう絶対やらない。
「カッコいいって声も何度か聞こえたし」
「耳、調子悪いの?」
「良好ですけど!」
しかめっ面をして、千花は窓の外へと視線を向ける。
「……でもしょうがないか。樹君はかっこいいもん。今だって、浴衣すごく似合ってるし」