イジワル副社長と秘密のロマンス
淡々とした千花の声は、突然湧き上がった周囲の騒めきにかき消されていく。彼女も何かを探すように遠くの方を見て、ぱっと表情を輝かせた。
「樹君、花火上がったよ! 川沿いで上げてるから、ここからだとちょっと距離もあるし迫力に欠けるかもだけど、綺麗だよね!」
花火の上がっている方向を指さしながら教えてくれるけど……俺は千花から視線を外さなかった。
「それを言うなら、千花だってそうなんだけど」
姿勢を正し、千花へと身体を向ける。
「浴衣、似合ってる」
ここにいる誰よりも似合ってる。
「すごく可愛い」
誰よりも可愛い。もう、目が離せない。ずっと千花を見ていたい。
手すりに手を乗せれば、彼女の指と自分の指がわずかに触れた。
触れてる部分はほんの少しなのに、苦しいくらいに千花を感じる。
伝わってくる彼女の温もりに鼓動が速くなっていく。
頬を赤らめ、俺をじっと見つめ返してくる彼女の瞳が、潤んでいく。
「樹君」
恥じらいながらも嬉しそうなその声に、身体が熱くなっていく。
もうだめ。限界。
彼女の身体を引き寄せ、そっと、自分の腕の中へと閉じ込めた。
全てが愛おしい。
どうしていいのか分からないくらい、千花が好き。