イジワル副社長と秘密のロマンス
『お疲れ』
「樹君も、お疲れ様!」
元気よく言葉を返すと、電話越しに彼が笑ったのが聞こえた。耳元がくすぐったい。
『仕事終わったからこのまま直帰できるけど……もしかして、今外にいる?』
「うん。まだ帰ってない。会社の近くにいるよ」
『そのまま待ってるなら、そっちに向かうけど。どうする?』
「待ってる!」
『了解。どこかの店にでも入って、時間つぶしてて。近くになったらまた連絡する』
私も「了解」と返し、電話を切った。歩き出せば、自然と笑顔になっていく。
時間が遅くなってしまったから、お店を見て回る時間はあまりない。そこに関しては残念だけど、樹君とデートができるということに変更はない。楽しみな気持ちが一気に膨らんでいく。
通りの先に、以前から気になっていたカフェのお洒落な看板が見えた。
そこで紅茶を飲みながら樹君を待つことに決め、歩くスピードを上げた瞬間、どこかで……でもすぐ近くで、クラクションが短く響いた。
思わず足を止め、車道へと目線を移動する。
一瞬、樹君かと考え、すぐに思い直した。高級車も含め、車が何台か路肩に停車しているけれど、そこについさっき取引先を出た樹君がいるはずがない。