イジワル副社長と秘密のロマンス


「待ってください! 私、食事をするつもりはありません。少しだけ時間を潰したくて寄っただけですから」


テーブル越しに向き合うと、白濱副社長は頬杖をつき、にこりと笑いかけてきた。


「時間つぶし?」

「そうです。この後、予定があるので」

「藤城弟とデート?」


無邪気な微笑みが、ほんの少し意地悪く見え、私は眉根を寄せた。


「そ、そうですけど」

「なーんだ。千花ちゃんと楽しくご飯を食べてもっと仲良くなれたら、このまま明日の朝まで独り占めできると思ってたのに」

「どうしたらそういう発想に……それから、出来れば“三枝”と呼んでもらえますか」

「ああ、残念だなぁ。でも弟が来るまでは千花ちゃんを独り占めできるってことだし、いいか。下に車も待たせてるし、今日の所は短時間で我慢する」

「私の話を、ちゃんと聞いてください!」


うやむやにさせてなるものかと語気を強めて注意してみたけど、白濱副社長には全く効かない。あははと私を見て楽しそうに笑っている。

戻ってきた店員に、白濱副社長は珈琲を私は紅茶を注文する。厨房へと向かっていく店員を見送りながら、こっそりとため息を吐いた。

しばらくは逃げられない。そう覚悟を決めて、私は白濱副社長へと顔を向けた。


「お帰りになってから今まで、この近くでお仕事を? そもそも、どうしてここに?」



< 281 / 371 >

この作品をシェア

pagetop