イジワル副社長と秘密のロマンス
「待ってください! 私、食事をするつもりはありません。少しだけ時間を潰したくて寄っただけですから」
テーブル越しに向き合うと、白濱副社長は頬杖をつき、にこりと笑いかけてきた。
「時間つぶし?」
「そうです。この後、予定があるので」
「藤城弟とデート?」
無邪気な微笑みが、ほんの少し意地悪く見え、私は眉根を寄せた。
「そ、そうですけど」
「なーんだ。千花ちゃんと楽しくご飯を食べてもっと仲良くなれたら、このまま明日の朝まで独り占めできると思ってたのに」
「どうしたらそういう発想に……それから、出来れば“三枝”と呼んでもらえますか」
「ああ、残念だなぁ。でも弟が来るまでは千花ちゃんを独り占めできるってことだし、いいか。下に車も待たせてるし、今日の所は短時間で我慢する」
「私の話を、ちゃんと聞いてください!」
うやむやにさせてなるものかと語気を強めて注意してみたけど、白濱副社長には全く効かない。あははと私を見て楽しそうに笑っている。
戻ってきた店員に、白濱副社長は珈琲を私は紅茶を注文する。厨房へと向かっていく店員を見送りながら、こっそりとため息を吐いた。
しばらくは逃げられない。そう覚悟を決めて、私は白濱副社長へと顔を向けた。
「お帰りになってから今まで、この近くでお仕事を? そもそも、どうしてここに?」