イジワル副社長と秘密のロマンス

抜群のタイミングでの樹君からの着信に、心が躍る。


「今度こそ、藤城弟?」

「はい! すみません。ちょっと外します」


私は白濱副社長に頭を下げつつ、入り口付近へと移動する。


『俺だけど。あとちょっとで社に着く。十分もかからないと思う。今、どこにいる?』

「カフェで紅茶飲んでるよ。私もそっちに向かった方が良い?」

『いや。ゆっくり飲んでて。俺がそっちに迎えに行くから』


樹君が着てくれるというのならば、白濱副社長が一緒にいることを前もって言っておくべきだろう。

どう言いだそうかと考えながら、なんと気なしに座っていた席へと目を向ける。

そっと、白濱副社長がぬいぐるみたちをテーブルへ戻したのが見えた。どうやら私がテーブルの上に置いてきたぬいぐるみをまた見ていたらしい。

ちゃんと大切に扱ってくれている。そのことに、ほんのり心が温かくなる。


『千花、聞いてる? 店の場所教えて欲しいんだけど』

「えっ。あっ。ごめん……えぇと、場所は」


手帳を広げ、何かを書き始めた白濱副社長に気を取られていたため、樹君から注意を受けてしまった。

社からこの店への道のりを簡単に伝えると、すぐに『分かった』と返事がきた。そのまま樹君が電話を切ろうとしたから、慌てて「待って」と引き止める。


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