イジワル副社長と秘密のロマンス


「あのね。実は今……」


白濱副社長と一緒なの。そう続けようとした瞬間、レジの前に長身の男性が現れた。白濱副社長だった。微笑みながら、私に向かってひらひらと伝票を振っている。

すぐにやってきた店員と朗らかに笑みを交わし、お会計をはじめる。聞こえてきた支払金額からして、私もぶんまで払ってくれている。

お財布は椅子の下。バッグの中だ。慌てふためいていると、あっという間に支払いを済ませた白濱副社長がこちらに向かって歩いてきた。


「千花ちゃん、今日はありがとう。とっても楽しかったよ。藤城弟にもよろしく言っておいてね」

「あのっ、ちょっと待ってください!」

「またね」


茶目っ気たっぷりの笑顔を見せてから、店のドアを押し開けた。


「白濱副社長!」


店を出て行こうとする彼を大声で呼ぶと、電話の向こうから『は?』と低い声が聞こえてきた。


『白濱副社長……って、なんであいつと一緒なの?』

「店の前で偶然会って一緒だったの。それで今、帰られました」


店の扉を振り返り見てから、とぼとぼと、空っぽになってしまった席に戻っていく。大きな借りを作ってしまった気分である。


『偶然ね……ま、大人しく帰ったんなら、それで良いけど。すぐに行くから、千花はそこにいてよ』

「はーい」



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