イジワル副社長と秘密のロマンス
電話を切ると、テーブルの上に名刺と紙切れが置かれてあることに気が付いた。そのふたつを手に取り数秒後、眉間にしわが寄っていく。
「ちょっ!」
テーブルにはカップが二つしか置かれていない。そこから窓の外へ、慌てて目線を移動する。
白濱副社長の背中が見えた。ちょうど彼の目の前に、黒塗りの高級車が停車し、降りてきた運転手が後部座席のドアを開く。
車内に乗りこむ直前、白濱副社長がこちらへと振り返った。
その手には二体のぬいぐるみがあった。私に向かって黒ネコの手を振ってみせてから、彼はにっこりと笑い、車の中に消えていった。
「……嘘でしょ」
車は走り去ってしまった。ただただ茫然としてしまう。
“人形、ちょっと貸して! 絶対に後で返すから。でもこのこと、藤城弟には内緒だよ! 言ったら、人形を無事に返せないかも。なるべく早く返すために、プライベートの番号に電話して。待ってるよ”
紙切れに残されたメッセージから分かることは、大切なぬいぐるみを人質に取られてしまったということだった。
名刺の裏には直筆で携帯番号、そこにプライベートという文字も書かれている。
「なんでこうなるのよ!」
私は紙切れをくしゃりと握りつぶし、彼と同席してしまったことをものすごく後悔した。