イジワル副社長と秘密のロマンス

たくさんの愛しさが詰まっている



「私の何が駄目だっていうのよ!」


自分のデスクでパソコンに向かっていた樹君が手を止めた。デスクの前に鬼の形相で立っている津口可菜美さんを見上げ、少し大げさにため息を吐く。


「何って。何度も説明した通りだけど? うちのドレスを一番綺麗に見せてくれるモデルに、メインを務めてもらうことにした。理由は明確」

「私は嫌よ。なんで他の子に譲らなきゃならないのよ! 納得いかない!」

「なんて言われようと、もう決めたことだから。決定は覆さない」


赤くさせた顔を歪め、声も荒げ、津口さんは自分の思いを樹君にぶつける。一方、樹君も攻撃的な眼差しを彼女に向け続けている。

副社長室内の空気は張りつめている。あまりの重苦しさに、部屋の隅に控えていた私は、自然と息を殺してしまっていた。

白濱副社長にぬいぐるみを持って行かれてしまったその翌日、会話の中で出た津口さんご立腹の理由を知ることとなる。

AquaNext夏の新作の撮影は無事に終わりを迎えたのだけれど、ロイヤルムーンホテルとタイアップし進めているブライダル関連の方は、スムーズにいかなかった。

話し合いの結果、ポスターやカタログの表紙を飾るドレスは、プリンセスラインからマーメイドラインのものへ変更となったのだ。


< 292 / 371 >

この作品をシェア

pagetop